@ はじめに  
     
A 失敗からはじまった私の資産運用法  
     
B 日本株を全部売却(2006年〜2007年初頭)  
     
C 外債を半分売却(2006年〜2007年初頭)  
     
D 暴落相場での参戦は難しい(2007年7月〜2008年12月)  
     
E 大失敗!商品市場(2008年7月〜2008年10月)  
     
F 米国債を全部売却(2008年10月〜12月)  
     
G 今後の投資戦略  
     
H おわりに  
     
     
     
@ はじめに
   世界は今(2008年12月現在)金融危機から世界恐慌への入り口に立たされている。2007年から2008年にかけての株式・債券・為替・商品等のマーケットの暴落は世界的なスケールとスピードを持って実体経済に襲いかかってきた。

  「貯蓄から投資へ」という政府・金融機関のかけ声に乗って株式や外国債券に投資した人も多いと思うが、今や多くの人が損失を抱えているであろう。逆に、株が暴落し、円が急騰したので、チャンスと思い再度日本株や外債にトライしようとする人や新規参入組も増えている。確かに「行け行けどんどん」のピーク近くで投資するよりは、「一億総悲観」にある時に参戦した方がリスクは少ない。

 しかし、冷静に今の世界情勢を見てみると、私はとても追加投資する気になれない。アメリカ発の金融危機が世界の実体経済に影響し、ヨーロッパや日本のみならず、新興国までドミノ倒しのように危機の連鎖が波及している。新興国通貨の暴落・国家破綻・IMF支援という事態は10年前のアジア通貨危機を想記させる。さらに原油・金属・穀物等の商品相場の暴落はオイル諸国や資源国のダメージをこれから顕在化させる。よって、2009年から2010年にかけて世界は大不況に陥る可能性が強い。(それを世界恐慌と呼ぶかどうかは歴史が決める)結果的に世界の株はさらに下落し、円キャリートレードの巻き戻しとリスク回避による円高がさらに高まることが予想される。

 私は1998年から投資をはじめたが、2006年から2007年の前半にかけて日本株を全部売却、外債は半分売却し、とりあえず金融危機を回避した。そして、2008年の12月までに、残りの外債(米国債)を全部売却して日本円にした。全面撤退である。これから数年間は日本円のキャッシュを握って「高みの見物」をすることに決めたのである。なぜそうしたのか?その理由を以下詳述する。
 
     
A 失敗からはじまった私の資産運用法
   私は1997年のアジア通貨危機で経済に目覚め、自分の資産防衛と老後の人生設計のために外貨運用を開始した。ところが、翌年1998年の夏、ロシア政府がルーブル債券のデフォルトを宣言し、世界の金融市場が大混乱に陥った。アメリカの巨大ヘッジファンドが倒産、資金の逆流がはじまり、あっという間に円高になってしまった。1999年から2000年までの円高局面での私の為替での含み損は30%にも上っていた。

 2000年ITバブルが崩壊し、世界の株式市場は崩れはじめた。しばらく様子を見ていた私はようやく2002年春頃株式市場に参戦しはじめた。ボトムが近いと思ったからである。私は日本株のみならずアメリカ株・ヨーロッパ株までも購入し、日本・世界のマーケットを相手に株・為替・債券等の運用を開始した。しかし、幸運の女神は微笑まなかった。その後、株価はさらに下がり続け半年後底値を打った。

 円高で為替差損が出、株安で株式の含み損が出た。八方塞がり。損切りするには痛手が大きくじっと我慢するしかなかった。このように私の資産運用デビューは散々なものであった。私の著書『安くて豪華に旅する方法』第3章の資産運用法に詳しく経過が書いてあるので、興味のある方は参照して頂きたい。この失敗体験が今回の金融危機回避に役立った。

 私の投資戦略はシンプルである。
(1)経済が好調で株価が高く、金利も高い時
「高値の株は買わずに、金利の高い(価格は安い)外国債券を買う」
(2)経済が不況で株価が低く、金利も低い時
「金利の低い(価格の高い)債券を売って、価格の安い株を買う」
(3)外貨運用は将来住んでみたい先進国の国債で長期運用し、むやみに日本円に換えない。外貨そのものを増やす。長期的な円高が予想される時のみ日本円に直す。

 残念ながらボトムとピークは誰にも分からない。さらに、マーケットは実体経済の先読みをして価格に織り込んでいく。実体経済が絶好調の時に「知らぬ間に」株価は下落しはじめ、実体経済が大不況で苦しんでいる時に「気がつくと」上昇しはじめる。よってボトムで買ってピークで売り抜けることなど至難の業である。
 
     
B 日本株を全部売却(2006年〜2007年初頭)
   株のボトムとピークを見つける方法はないが、経済の好調・不調の波を見分ける確かな方法がある。それはアメリカの中央銀行FRBの金融政策である。アメリカ経済が好調になるにつれてFRBは徐々にFFレートを上げていき、不況に突入すれば大胆に利下げする。

 2000年のITバブル崩壊に直面したアメリカはFFレートを大胆に下げていった。ITバブル絶頂の2000年12月には6.5%あったFFレートを連続利下げをし、2003年6月には1.0%の超低金利にまでした。そして、見事にITバブル崩壊に伴うアメリカの経済不況を最小限に抑えこんだ。カリスマ議長グリーンスパンの面目躍如である。しかし、1%のFFレートは実質マイナス金利であり、各種貸し出し金利(特に住宅ローン金利)が低下し住宅バブルに点火させた。

 アメリカの不動産ブームは世界に波及、さらに、世界の工場となった中国や新興国の発展もあいまって世界中がハッピーな時代をむかえた。2003年をボトムに世界の株が上昇し、日経平均も2003年4月、7607円の大底で反転し、長期上昇トレンドに乗った。

 私はこの上昇トレンドに救われた。長らく塩漬けだったアメリカ株、ヨーロッパ株、日本株がことごとく浮上し毎日ハッピーな日々を迎えた。この上昇トレンドで私のアメリカ株、ヨーロッパ株は原点近くで売却し、日本株のみ追加投資と「Buy and Hold」を継続した。

 2004年6月アメリカFRBはFFレートを0.25%上げて1.25%にした。利上げ開始である。すなわち、不況を脱して景気拡大への狼煙(のろし)が上がった。(株購入の絶好のタイミング)その後2年間、FRBは何度も利上げを繰り返し、2006年6月(最後の利上げ)には5.25%まで上昇してきた。FFレートが上昇すれば住宅ローン金利も上昇する。アメリカの住宅ローンは変動金利が多いので、金利が高くなると返済できない人が増え、住宅販売も減る。しかも、FFレート1%〜2%という超低金利時代に住宅バブルに火がついたので、金利上昇と共にアメリカの住宅バブルはいずれ近いうちに崩壊すると私は思った。(注:この段階では私はまだアメリカのサブプライムローンはじめ危ない証券化商品の存在は知らなかった)

 日本経済は外需依存で、日本の株式市場の半分以上は外国人投資家で占められている。よって日本株はニューヨークの株式市場の影響をまともに受ける。アメリカの住宅バブルが崩壊すればニューヨークの株も崩れ日本株も運命共同体的に下落する。崩れる前に早めに撤退する必要がある。よって、私は2006年から2007年初頭にかけて1年間かけて様子を見ながら日本株をすべて売却した。日本株の売却によって私は多少の利益(決して大もうけしていない)を確保して株から全面撤退した。

 長く続い世界の株高は2007年の夏頃ピークを打ち、2008年の秋以後、急激に下落していった。この株価暴落は歴史に残るほどの激変だったので記録として残しておこう。
 
     
 
世界の株価変動
 
 
2007年高値
2008年高値
2008年12/30
日経平均(日)
18261(7/9)
14691(1/4)
8859(51.5%)
NYダウ(米)
14164(10/9)
13058(5/2)
8668(38.8%)
FT (英)
6732(6/15)
6479(1/3)
4392(34.8%)
DAX (独)
8105(7/16)
7949(1/2)
4810(40.7%)
RTS(ロシア)
2359(12/12)
2487(5/19)
625(74.9%)
上海(中国)
394.2(10/31)
373.6(1/8)
110.9(71.9%)
ムンバイ(インド)
20375(12/12)
20873(1/8)
9716(53.5%)
 
     
   下落率の大きい順に並べれば、
ロシア>中国>インド>日本>ドイツ>アメリカ>イギリス
となる。括弧内は高値の日付、%は2008年12/30の株価の 2年間の高値からの下落率である。ロシア株、中国株は壊滅的に下落した。
 
     
C 外債を半分売却(2006年〜2007年初頭)
   為替相場と日本株は連動している。外需依存の日本経済は輸出企業の業績に左右されるので「円安」で利益が膨れ「円高」で利益が減る。よって、円安になれば日本株は上昇し、円高になれば下落する。さらに、日本の長期にわたるゼロ金利政策によって、外資系金融機関は「ただ同然の低金利」で日本円を借り入れ、それを米ドル、ユーロ、その他高金利通貨に変えて世界中で運用してきた。いわゆる「円キャリートレード」である。

 円キャリートレードは非常に危ない側面がある。大量の円を借りて世界で運用するので、継続的な円売り外貨買いにより円安が進行する。結果的に日本株は上昇、外債の円ベースの利回りもアップする。世界経済が順調に拡大している間は何も問題なく、高利回りが実現して日本の投資家はみんなハッピーになる。

 しかし、一端、世界で何か悪いことが起こると資金の逆流が起こる。日本円を調達した外国の金融機関は危なくなった国の株・債券等を売り、同時にその国の通貨も売って、最終的に日本円に直して返済しなければならない。しかも、早い者勝ちである。逃げ遅れればThe Endになる。結果的に大量の円買い外貨売りが発生し急激な円高が進行する。1998年ロシア危機の時、私はその激変ぶりを目の当たりにした。崩れる前に逃げる必要がある。(2007年のサブプライムショック、2008年のリーマンショック等、同じことが繰り返された)

 1998年からはじめた私の外貨運用は一時は30%程度まで円高で含み損を抱えた。しかし、その後の円安トレンドに救われ、所有する外貨全てにおいて含み益が出るようになった。そこで、私はアメリカの住宅バブルがはじける前に、2006年から2007年初頭にかけて1年間かけて様子を見ながら外貨資産を半分売却した。特に、高くなったユーロ、カナダドル、ニュージーランドドル建ての外債・外貨預金は全て売却して日本円に直し、米国債のみ残した。この売却によって長年の外貨投資による利益を円ベースで確保した。ただし、大もうけにはほど遠い利益水準である。

 さらに、2007年6月から7月にかけて、満期までの期間の短い米国債を売却し、日本円には直さずに、米ドルのままで期間10年から12年満期の米国債を購入した。理論どおり、経済が絶好調な時(2007年)に株を売り、価格の安い(金利の高い)長期債を買ったのである。米国長期債の利回りは5%を超えていた。

 長期の米ドルゼロクーポン債を残したのには理由がある。アメリカの住宅バブルが崩壊すれば世界不況になり、投資家は株や社債を売って国債に逃げる。「質への逃避」である。アメリカが大不況になればアメリカ株は暴落しアメリカ国債は暴騰(金利は低下)する。その時、利益の乗った私の米国債を売って、安くなったアメリカ株をバーゲンハンティングすればいい。円に換えるつもりはない。米ドルのままで運用を続けるのである。

 長く続いた円安トレンドは2007年の夏頃ピークを打ち、2008年の秋(リーマンショック)以後、急激な円高トレンドになった。この為替変動は歴史に残るほどの激変だったので記録として残しておこう。
 
     
 
為替変動
 
 
2007年高値
2008年高値
2008年12/30
米ドル
123.8円(6/22)
110.5円(8/1)
90.2円(27.3%)
ユーロ
169.5円(7/10)
169.4円(7/18)
127.0円(25.1%)
英ポンド
250.0円(7/10)
215.6円(7/23)
130.3円(47.9%)
カナダドル
124.4円(11/16)
106.7円(7/23)
74.0円(40.5%)
豪ドル
107.5円(10/31)
104.1円(7/22)
62.3円(42.1%)
NZドル
95円(7月)
82円(7月)
52.4円(44.8%)
 
     
  注:豪ドルはオーストラリアドル、NZドルはニュージーランドドル、括弧内は日付、 %は2008年12/30 の為替レートの2007年の高値からの下落率  
     
D 暴落相場での参戦は難しい(2007年7月〜2008年12月)
   株を売った後も株価が上がり続けるのを目にするのは正直辛い。損した気にもなる。しかし、ピークで売り抜けることなど至難の業と自分に言い聞かせじっと我慢する。その後、日経平均は半年くらい上がり続け2007年7月9日、ピークを打った。終値は18261円である。そして、2008年12月30日の終値は8859円。わずか1年半で50%強の下落。恐るべき暴落相場である。

 どうも私は「経済分析と投資」が好きみたいである。全面撤退した株式ではあるが、日々のマーケット分析は欠かさず行い、何か「もうける方法はないか?」と研究に余念がない。

 2007年の夏以降、アメリカのサブプライムローン問題が噴出して、株価が下落しはじめたので、私は日経平均連動の投資信託である「パワーセレクト・ファンドV」(ブル・ベアファンド:大和証券)を購入した。2007年9月のことである。このファンドは日経225先物を取り組んだ金融派生商品で、「ブル」(2倍のレバレッジあり)は日経平均が上がれば利益が出て、下がれば損する。逆に、「ベア」(レバレッジなし)は日経平均が上がれば損をし、下がれば利益が出る。そして、ブルとベアは随時スイッチができニュートラルのマネーファンドに一時資金を待避して様子見することもできる。投資金額は抑え、私は勉強のつもりで参加した。長期の下落相場を確信していた私はベアからスタートした。

 その後、予想どうり日経平均が大幅に下落したので、私は利益を確定し、ベアからブルにチェンジした。株価は一方的に下落(または上昇)するのではなく、上下の波を描きながら長期に下落(または上昇)していく。よって、下落相場の中でも短期の上昇にうまく乗れれば、上がっても、下がっても利益が出る。これを狙って時々スイッチングを試みたのである。さらに、株価が大幅に下落した場面では個別株の突っ込み買いをし(ただし、リスクを抑えて投資金額は少なめにし)自立反発で10%くらいの利益がでたら売り抜く「短期売買」もしてみた。

 当初はうまくいった。しかし、1年間くらい短期売買を繰り返していると負ける場合も多く、何度も「損切り」をした。結局、投資成績は個別株では損益なし。パワーセレクトファンドは10%程度の利益を出して現在マネーファンドに待機してある。2008年7月(日経平均13184円)、様子見のつもりでマネーファンドにスイッチしておいた後に、リーマン・ショックが来た。その後の大暴落相場に乗り遅れた訳である。

 やはり、下落相場での株式売買は難しい。株を持つことがリスクになり、下がる前に早く売り抜かなければならないので時間的、精神的余裕が無くなる。また、下落相場での短期の上下の波にうまく乗ることなど至難の業であることが分かった。ブル・ベアのスイッチは理論的には素晴らしいが実際の運用は神業となる。1年間の短期売買の収穫は何度も損切りをしたことである。これで損切りに対する抵抗感が全く無くなった。

 非常に単純なことであるが、株式投資で勝つためには、
長期の上昇相場を予想すれば、Buy and Hold
長期の下落相場を予想すれば、Sell and Hold
そして、あまり欲を出さず早めに撤退する。
しかし、予想が外れれば損失を被る。自己責任なので諦めるしかない。
 
     
E 大失敗!商品市場(2008年7月〜2008年10月)
   2007年の夏から2008年の夏にかけて世界の株は崩れても商品市場は高騰し続けていた。そして、ガソリン価格を始め日常品が続々と値上げされ、マスメディアではインフレ到来を声高に叫ぶようになってきた。

 私の金融資産のポートフォリオは完全にデフレ対策である。「アメリカの住宅バブル崩壊→世界の住宅バブル崩壊→長期の世界不況→長期のデフレ→現金が王様」というシナリオを描いていたからである。ここにインフレの波が突然訪れ、私は動揺した。そして、十分検討する前にある金融商品を買ってしまった。「ダイワ・コモディティ・インデックス・ファンド」である。2008年7月のことである。

 その直後、原油市場が崩れた。その後、穀物、金属、貴金属等すべての商品市場が総崩れになり、私の買ったファンドの価格は一直線に下落していった。当初は、マーケットの一時的調整だと思っていたが、金融危機が世界の実体経済に影響しはじめ実需の面からも商品市場に暗雲が出てきた。あまりの原油価格の下落にオペックが原油の減産を発表した。しかし、マーケットは全く反応せず、相変わらず下落していった。

 2008年10月、私は耐え切れなくなってコモディティファンドを全部売却した。何と50%弱の損切りである。その後、商品市場はさらに下落を続けた。(損切り成功?)失敗の原因はムードに流されて急騰するマーケットに準備不足のまま参加したことに尽きる。

 原油はじめ商品の需給で考えれば、たった1年間で需要が2倍(価格が2倍)になるはずがない。冷静にお金の流れで見れば、2007年の夏から2008年の夏にかけて、やばくなった株から商品に投資マネーが流れ込んだだけである。後になって振り返れば暴騰相場の理由がよく分かる。

 しかし、自分の身の回りで日常品が値上がりし、新聞・雑誌でインフレ到来を煽られると冷静な判断がつかなくなる。やはり、投資には世界情勢やマーケットを冷静に分析する研ぎ澄まされた知性が必要である。この失敗を教訓として、次を狙おう!(私は懲りない人間かもしれない)
 
     
F 米国債を全部売却(2008年10月〜12月)
   アメリカや米国債・米ドルに対する私の認識が今回の金融危機で大きく変わった。結論から書けば、もうアメリカは信用できない。米国債・米ドルは今後値下がりし、長期保有すると大幅な損失を被る恐れがある。本格的ドル危機が来る前に早めに売却したほうがいい。このように考えた理由を以下に記す。

 リーマン・ブラザーズの経営破綻(2008年9/15)以後、アメリカ政府の態度は一変した。速やかに総合経済金融安定化対策(9/20)を発表し、2000億ドル出して政府系住宅金融機関ファニーメイとフレディマックを救済。10/3難産の末、金融安定化法案を成立させ、7000億ドルの公的資金注入枠を決めた。そして、世界金融危機の深化と共に経営難に陥ったAIG,シティバンク等を救済していった。巨大金融機関は、「Too Big To fail」をいいことに遠慮なく政府支援を要請し、たいした血を流さずに政府に救済されていった。「モラルハザード」はどこに行ったのか?これでは自己責任の放棄である。自己責任の放棄は米自動車大手3社(ビッグ3)の救済ドタバタ劇へと続く。

 アメリカの中央銀行FRBは2008年11月末、「住宅ローン関連債券・証券の6000億ドルの買い入れ」「学生・自動車・クレジットカードなどの消費者ローン関連証券向けに2000億ドル規模の支援」を発表した。やばくて買い手がいない商品を買ってやり、返済が危ぶまれる消費者ローン関連証券に援助の手を差し伸べる。これが権威あるアメリカ中央銀行のすることか?さらに、12月、FRBは「米国債の買い入れ」まで言及した。何でもありの状況になってきた。最後の買い手となったFRBは、今後、際限なく不良資産・国債を積み上げ、FRBの資産は限りなく劣化していく。即ち、米国債の信認低下が起こる。2008年12月末現在、10年満期米国債の利回りは2.4%を切った。これはアメリカの歴史的低金利(価格暴騰)で、今は米国債バブルの様相を呈している。高騰を続けている米国債もいずれ価格下落(金利上昇)を迎えるであろう。投資においてはバブル崩壊の前に逃げるのが鉄則である。

 オバマ新政権が発足すれば大規模な財政出動が発動される。アメリカの雇用創出のために彼は本気でやるだろう。しかし、アメリカ政府の財政は火の車(財政赤字)でお金はない。政府は米国債を発行してお金を調達する。しかし、アメリカは巨大な経常赤字の国なので、国内に大量の米国債を買うお金はない。結局、外国人に買ってもらわなければ国債の安定供給はできない。外国人が米国債を買うということはアメリカを助けてやるということで、世界不況に直面している現在の世界の国々にどれだけ大量の米国債を買う余力があるのか?

 ここでも米FRBが最後の買い手として登場する。FRBが売れ残った大量の米国債を買い入れてやればよい。そうすれば米政府は無制限にお金が調達できる。ミルトン・フリードマンが説いた「ヘリコプターマネー」(政府がお札を刷ってヘリコプターで空からばらまくような政策)の実現である。バーナンキFRB議長は大恐慌研究の世界的権威で、大恐慌脱出の究極の奇策として、この方法を高く評価している。彼は本気で米国債を買い支えるであろう。

 それでもあなたは米国債や、米ドルを買いますか?2009年は、米国債の大量発行によるドルの信認低下が起こり世界的なドル危機元年になると私は思う。そして、米国債売り(金利上昇)が 世界恐慌への引き金になる可能性がある。怖い未来が予想される。1ドル90円からスタートして80円、70円へと、さらなる円高になる。

 2008年10月3日成立したアメリカ金融安定化法案にはとんでもない条項が入っている。この法案は「米証券取引委員会に時価会計を部分的に緩和する権限を与えた」のである。要するに、「危なすぎて誰も買わない(市場価格が存在しない)債券・証券等は時価評価しなくてもよい」ということである。時価評価すればただ同然のゴミ商品を高い値段で粉飾決算してもよい、ということで無茶苦茶な条項である。

 しかも、驚くべきことに、ヨーロッパでも、国際会計基準を採用する欧州金融機関が米国勢に比べて不利にならないように、国際会計基準審議会(ISAB)が、「いったん売買目的とした投資有価証券でも満期保有の証券に分類を変更すれば、時価会計しなくてもよい」と変更してしまった。日本がバブル崩壊で苦しんでいる時には「時価会計」を振りかざし、我が身に火の粉が降りかかってくると簡単に原則を変える。この欧米のご都合主義は一体どういうことか?私は許せない。

 日本政府は欧米のご都合主義に断固抗議をして、時価会計を貫かせるべきである。そして、うず高く積み上がった「毒入りまんじゅう」債券・証券等を徹底的に時価評価し、ただ同然の値段で欧米の有力企業・不動産を買いたたくべきである。日本は逆襲せよ!

 以上のことにより、私は米国債を保有する意志が全くなくなり、2008年12月までに、残りの米国債を全部売却した。売却時、為替(円高)で負けていたが、債券価格がアップしていたので、円ベースでは損益ゼロである。
 
     
G 今後の投資戦略
   2009年はアメリカのオバマ新政権がリード役になって世界中の政府が不況阻止に向かって政策を総動員するであろう。日・米・欧の主要先進国はゼロ金利と量的緩和により超金融緩和政策を取り、さらに各国政府は大規模な財政出動(大判振る舞い)をするであろう。その結果、今年のある時期には世界の株価が上昇するかもしれない。

 しかし、それは痛み緩和の対症療法に過ぎず、本質的解決にはほど遠い。今回の金融危機と世界不況は「アメリカ発の世界不動産バブルの崩壊」「アメリカの複雑な証券化手法の失敗による金融の機能不全」「アメリカの過剰消費に依存した新興国の急成長の挫折」その結果として「世界的負債の増大と巨大な逆資産効果」、これらが複雑に絡み合っている。2009年以降はこれらが互いに影響しあい悪循環となって実体経済へ襲いかかってくる。とても楽観的シナリオなど描けない。

 本質的解決のためには今回の不況の原因が除去されねばならない。その処方箋は専門家にまかせるとして、不況脱出のためにはアメリカの住宅価格が下げ止まることが最低条件となる。住宅価格が半値になろうとも需要と供給の関係で自然に価格が下げ止まるまで落ちる必要がある。例え何年先になろうとも……。住宅バブル崩壊のダメージの深さと回復への道のりの長さは日本人が一番良く知っている。とても数年で回復するものではない。よって、アメリカの住宅価格の代表的指標であるケース・シラー住宅価格指数が底打ちし、その他の住宅指標も継続的に改善される必要がある。

 そして、株式投資の明確な「Go」サインはアメリカの利上げである。アメリカの住宅価格が下げ止まり、在庫率が減少し、新築住宅着工が増加に転じ、アメリカ経済が不況を脱するにつれてFRBは果敢に利上げする。何しろFRBは2008年12月、最後の利下げ(FF金利を0〜0.25%に誘導)を行い、歴史的なゼロ金利政策に踏み込んだ。インフレ圧力の強いアメリカにとっては異常事態・緊急事態である。次は利上げしかない。

 ただし、世界的ドル危機の対応策として、ドル防衛のための利上げとは別である。あくまでも、アメリカ経済復活のサインとしての利上げである。その時、株価はすでに上昇に転じているかもしれない。しかし、ボトムでは買えないので、利上げを待って株式投資を開始しても遅くはない。私は輸出主導の日本株を買うつもりである。粉飾決算が暴かれるまで欧米の株式はもう買わない。

 そして、アメリカの利上げは外債投資の「Go」サインでもある。FRBは経済状況を先取りしながら躊躇無く連続利上げに進む。一方、デフレ圧力が強く内需が弱い日本経済は世界経済の回復待ちの状態が続く。さらに、日本政府は膨大な財政赤字(国債発行残高)があるので、金利が上がると国債の利息が激増し、財政破綻に近づく。閣僚からの利上げ阻止への政治介入も多い。よって、優柔不断な日銀が果敢に利上げに動くことはあり得ない。その結果、日米の金利差は開き、お金は低金利の日本から高金利のアメリカに再び流れる。即ち、円安トレンドが再開する。

 次回の円安トレンドへのターニングポイントは極めて重要だと私は思う。為替はシーソーゲームなので、ある通貨が弱くなれば他方が強くなる。今は、欧米の住宅バブル崩壊や世界金融危機、さらに円キャリートレードの巻き戻し等によって、消去法的に日本円が買われている過ぎない。昔のように日本経済が強くて円高が進んでいる訳ではなく、相手が転んだ結果としての円高トレンドである。

 ひるがえって日本の経済・財政・政治・社会状況を見ると極めて悪い。経済は外需・内需共に総崩れ、財政は先進国中最悪の累積財政赤字が重くのしかかり、「2011年プライマリーバランス黒字化」という目標も完全に崩れ去った。政治は自民党の断末魔の様相を呈し政権交代の有無にかかわらず政治的混乱は当分続く。少子高齢化・労働人口減少は待ったなし。年金・健康保険・医療等が崩れていき、犯罪や社会不安が増大していく。

 果たして日本に未来はあるのか?恐らく、次に、欧米が力強く復活してきた時こそ、日本は本当の危機を迎えると私は思う。新興国・資源国は再び復活し、原油はじめ商品の需給も逼迫しインフレが再燃する。円キャリートレードも再開され、長期の円安がスタートする。資源高に大幅な円安が加われば輸入物価が高騰しインフレ(消費者物価の高騰)が日本を襲う。これが一番怖い。貯蓄の少ない庶民の生活は一気に苦しくなる。

 私は資産防衛の観点から、為替のトレンドが次に円安へ大きく変わる時、大胆に日本円を売って再び外貨(米ドル・ユーロ・カナダドル・豪ドル等)を買うつもりである。それまでは、日本円のキャッシュを握って「高みの見物」をする。
 
     
H おわりに
   日本のプロが運用する株式・外債等の投資信託の運用成績は最悪である。2008年12月末現在、株式投信の3年間(2006年〜2008年)の運用実績を見てみると、マイナス30%〜40%が続出している。中にはマイナス50%にも及ぶファンドがある。また、株式よりははるかに安全で高利回りの外債の投資信託でも1年間でマイナス20%弱、3年間でマイナス10%弱である。これではプロ失格である。貴重な貯金や退職金が目減りしてしまった投資家にどう申し開きをするのであろうか?本来なら、責任を取って資産運用担当者は全員首になってもおかしくない。それとも投資家の自己責任論で逃げる?開き直る?

 私は今回の金融危機の前に、株式を全部売却、外債も半分売却して利益を確定したので、商品相場の損失を差し引いても十分プラスになっている。よって、私は日本のプロに勝ったと密かに自負している。

 しかし、私の投資成績を冷静に分析してみると、全く面白みがない。私は1998年から2008年まで10年間も資産運用を続けてきて本格的に利益を出したのが2006年以降の売却によってである。概算であるが、10年間のトータルリターンは30%程度。年率に直せば約2.7%(複利運用として計算)に過ぎない。

 単純に考えれば、利回り4%〜5%の外債を10年間運用すれば単利計算でも40%〜50%のトータルリターンが得られるはずである。しかし、実際には売買手数料や税金が差し引かれ(これが結構大きい)、為替の逆風にまみれ、円ベースでの利益は意外に少ない。さらに、株式や商品は変動が大きく、もうけを積み上げていても1つの大きな失敗によって利益が吹っ飛んでしまう。

 真剣に勉強し、リスクを取って貴重な財産を投資した結果がこの程度(年率約2.7%)である。しかし、負けたわけではなく、ゼロ近辺に張り付いている日本の銀行預金金利よりはいい成績を残せたことは事実である。

 10年間にわたる資産運用経験で私の得たことは、次の2点である。
(1)投資に対する過大な期待や幻想が無くなった
(2)世界経済やマーケットの動きが少しは分かるようになった


 庶民にとって、特に熟年世代の人々にとって、資産を減らさないことが一番重要である。私の資産運用法が何か参考になれば幸いである。

 
 
(2008年12月掲載)